日本のスマートシティ政策。世界からみた現在地と今後の課題

日本のスマートシティ政策。世界からみた現在地と今後の課題

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スイス・ローザンヌに拠点を置くビジネススクール国際経営開発研究所(International Institute for Management Development、IMD)は 2019年から毎年、シンガポール工科デザイン大学(Singapore University of Technology and Design、SUTD)と共同でスマートシティランキング「Smart City Index(スマートシティインデックス)」を発表しています。このレポートでは、世界の主要都市の市民に聞き取り調査を行い、各都市のインフラ、サービス、テクノロジーなどの分野をAAA~Dで評価しランク付けしています。

2021年10月に発表された最新版「Smart City Index 2021」は、118の都市が対象となりました。ランキング1位は、スマートシティ評価、構造評価、技術利用評価のすべてにおいてAAAとされたシンガポールで、3年連続のトップ評価です。同2位はスイスのチューリッヒ、同3位はノルウェーのオスロ、同4位には台湾の台北が入っています。

日本のトップは東京で、スマートシティ評価はCCC、構造評価はB、技術利用評価はCCCの84位でした。この順位は、同じアジアの韓国・ソウル(同13位)、香港(同41位)、中国・北京(同69位)、マレーシア・クアラルンプール(同74位)、タイ・バンコク(同76位)よりも下位です。また、日本の次点は大阪で86位でした。

日本では2016年に「第5期科学技術基本計画」が閣議決定され、政府をあげてのスマートシティへの取り組みが推進されています。しかし、スマートシティランキングにおける東京の順位は2019年より62位→79位→84位、大阪は63位→80位→86位と、どちらも3年連続で順位を落としており、都市のスマート化で世界に後れを取っているのが現状です。

本記事では、 同ランキング上位の都市との比較を行いながら、日本におけるスマートシティの現在地をご紹介します。

スマートシティの定義

内閣府ホームページによると、スマートシティは「ICT等の新技術を活用しつつ、マネジメント(計画、整備、管理・運営等)の高度化により、都市や地域の抱える諸課題の解決を行い、また新たな価値を創出し続ける、持続可能な都市や地域」のことを指します。

つまり、最新技術を活用し、 環境に配慮しつつ、人々の生活を豊かにできる都市のことをスマートシティといいます。

「スマートシティインデックス」の概要

画像引用元:Smart City Index 2021 PDF資料より

スマートシティインデックスは、2021年版では世界の主要118都市、各都市120人の在住者を対象に、在住者が利用できる都市の「構造」と「技術利用」の2分野において、それぞれの「健康と安全」、「移動」、「活動」、「就労と学習の機会」、「ガバナンス」の5つの領域について聞き取り調査を行いランキングにしています。評価はAAAが最も高く、AA、A、BBB、BB…と続き、Dが最も低い評価となります。

シンガポールは3年連続で1位となり、「構造」「技術利用」ともにAAAで、スマートシティ評価はAAAです。スマートシティ評価でA以上を受けたのは9位の都市までで、順にスイス・チューリッヒ、ノルウェー・オスロ、台湾・台北、スイス・ローザンヌ、フィンランド・ヘルシンキ、デンマーク・コペンハーゲン、スイス・ジュネーヴ、ニュージーランド・オークランドです。

一方でスマートシティ評価でDを受けたのは113位から118位の都市で、順にケニア・ナイロビ、ナイジェリア・アブジャ、ナイジェリア・ラゴス、コロンビア・ボゴタ、ブラジル・サンパウロ、ブラジル・リオデジャネイロです。2019年と2020年はラゴスが2年連続の最下位で、リオデジャネイロは2021年で初めての最下位となりました。

他の同様の国際ランキングと大きく変わらず、上位には欧米諸国の先進国が並び、下位にはアフリカ・南米諸国の発展途上国が集まっています。しかし、日本人として注目すべきは先進国といわれる日本の評価順位で、東京はスマートシティ評価でCCCの84位、大阪もCCCで86位という下位の方から数える方が近い結果です。また、日本が様々な支援を行っている76位のタイ・バンコクや82位のウクライナ・キーウと同等の評価であるほか、大阪の次点の87位にはCC評価でハノイ、88位にはホーチミン市など、発展途上国と呼ばれている国・地域が迫ってきている点も見逃せません。

スマートシティを目指す日本の現在地

3年連続で順位が下がった東京・大阪

先進国とされる日本ですが、スマートシティ化が想像以上に進んでいないことが分かります。「構造」分野では、公共交通機関や医療サービスの提供、衛生状態は比較的高い満足度が得られています。一方で、交通渋滞、公務員の汚職などで不満度が高い傾向にありました。

「技術利用」分野では、宅配システムの充実、交通渋滞情報の提供では高い評価を得られていますが、カーシェアリングや自転車レンタルの利用の少なさ、大気汚染状況の確認方法、財政状況の公開度などで極端に低い評価となっています。

日本の様々な技術は世界に誇るとされているものの、その技術が人々の生活の利便性に大きく貢献できるところまではたどり着けていないことが浮き彫りになりました。

3年連続1位のシンガポール

シンガポールは、同ランキングで唯一、 最高のAAA評価を得た都市です。「構造」分野では、 医療サービス、衛生状態、子どもの教育面など、住宅価格や交通渋滞など一部を除き、全体的に高い評価を得られています。

「技術利用」分野でも、オンライン上でのチケット購入、インターネット回線の速度と信頼性、オンライン医療サービスの充実度など、多くの項目で満足度が高い傾向にあります。

シンガポールは国土が狭く、交通渋滞、経済成長の鈍化、少子高齢化など、様々な課題を抱えています。それらを解消すべく、2014年から「Smart Nation(スマートネーション)」という、国を挙げてのスマートシティ化プロジェクトが進行中です。デジタル技術などを積極的に導入することで、人々の生活水準が順調に向上していることがうかがえます。

47位から13位へランクアップした韓国・ソウル

では、隣国である韓国・ソウルは、なぜ前年比34もランクアップしたのでしょうか。「構造」分野では、大気汚染問題、交通渋滞、公務員の汚職問題は極端に低い評価が出されていますが、医療サービス、衛生面、リサイクルサービス、公共交通機関などで全体的に高い評価を得られています。

「技術利用」では、Wi-Fiサービスの充実度、監視カメラ設置による安心度、交通渋滞情報の提供、オンライン販売サービスの充実など全体的に評価が高く、目立った低い評価の項目はありません。

韓国では2000年代初頭から、スマートシティへの構築に力を入れ始めました。近年は、街の各所に設置した監視カメラで24時間体制の監視を行ったり、街で人が倒れたらカメラが自動で見つけ急病患者にもすぐに対応できるといった体制を構築していることから、市民の支持を得られつつあるとみられます。

日本国内で動きを見せるスマートシティ事例

スマートシティインデックスの評価では、日本はスマートシティ化が進んでいないという印象が強く出てしまっていますが、国内では様々な企業がスマートシティの実現に向けて少しずつ動き出しています。下記ではその一部をご紹介します。

三井不動産「柏の葉スマートシティ」

三井不動産などが共同運営者として携わる「柏の葉スマートシティ」は、2014年に本格稼働しました。公・民・学の連携が意識され、新産業創造、健康寿命、環境共生の3つの最適解を目指しているのが特長です。

健康に関わるサービス施設が充実しているほか、健康に関する情報が無料で提供されます。また、スマートセンターを設置し、地域のエネルギー運用とともに災害時のエネルギー情報も管理できるようになっています。

・柏の葉スマートシティの詳細は、こちらの記事をご覧ください。
2022年日本のスマートシティ政策事例|柏の葉スマートシティ

ソフトバンク「Smart City Takeshiba(スマートシティ竹芝)」

ソフトバンクは2019年より、東急不動産との共創で、最先端技術を東京都港区竹芝の街全体で活用するスマートシティ「Smart City Takeshiba」の構築に取り組んでいます。

同地区内の大気や温度、人流、交通状況などあらゆる情報をデータ化して収集し、個人の行動予測や最適な行動支援、飲食店の空席状況などをスマホアプリなどを通じて提供できるようにします。

・Smart City Takeshibaの詳細は、こちらの記事をご覧ください。
2022年日本のスマートシティ政策事例|Smart City Takeshiba(スマートシティ竹芝)

トヨタ「Woven City(ウーブン・シティ)」

トヨタ自動車は2021年より、静岡県裾野市に「ヒト」、「モノ」、「情報」のモビリティにおける新たな価値と生活を提案するスマートシティ「Woven City」を建設中です。

ここでは自動車企業らしく自動運転やカーシェアリングを実現したり、ロボットやAIの活用、他企業と連携したスマートホームの導入なども計画されています。

・トヨタWoven Cityの詳細は、こちらの記事をご覧ください。
2022年日本のスマートシティ政策事例|トヨタ「Woven City(ウーブン・シティ)」

街全体で取り組むのが理想、しかし今はコツコツと

スマートシティは、街全体が取り組んでこそ発揮できるものです。しかし、各自治体・企業、個人の認知度・理解度の差が大きく、連携が上手に取りにくいことが、スマートシティ化が進まない要因の1つになっています。

そんな中、内閣府は2019年に、スマートシティへの取り組みを官民連携で加速させるためのスマートシティ官民連携プラットフォームを開設しました。

スマートシティ官民連携プラットフォームは、企業、大学・研究機関、地方公共団体、関係府省らが会員となり、同プラットフォームを通じて、事業支援、分科会の開催、マッチング支援、普及促進活動などを実施しています。

どこの自治体にどういったニーズがあり、どの企業がどのようなシーズを持っているのか、 具体的な例は次記事でご紹介します。

スマートシティへの第一歩に、予約管理システム「RESERVA」

各企業、店舗、個人で始められるスマートシティへの実現に向けて、まず挙げられるのが、SaaSシステムの導入です。例えば、SaaS型予約管理システムして国内最大級の登録事業者数26万社を誇る「RESERVA」の場合、セミナー開催やオンラインウェビナー、オンラインレッスンなど、予約が発生するすべての業態において効率よく予約作業を進めることができます。

また近年は、人口20万人を超える規模の自治体のほか、人口5万人以下の小規模な市町村でも導入実績があり、 官民連携の良き実例としても挙げられています。システム導入はコストや管理費が高いというイメージを持たれることが多いですが、RESERVAなら安価で、誰でもかんたんに利用できるシステムとして好評を得ています。

詳細は、予約システムRESERVA(レゼルバ)ホームページをご覧ください。

まとめ

スマートシティへの取り組みが遅れている日本ですが、決して何も実施されていないということではありません。政府はスマートシティを強く推進し、各企業でも多種多様な取り組みがなされています。その1つひとつがしっかりと連携できるようになれば、日本は世界に誇るスマートシティへと大きく変貌するでしょう。

次記事では、自治体と日本の企業が見事に連携し、スマートシティが加速した事例を詳しくご紹介します。

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