【スマートシティ政策事例】福岡県八女市「DX推進戦略」を解説

【スマートシティ政策事例】福岡県八女市「DX推進戦略」を解説

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福岡県の南東方面にあり、八女茶の産地として栄える「八女市」。そんな八女市では、単なるデジタル活用にとどまらず、地域や社会、組織までも大胆に変革する「DX(デジタル・トランスフォーメーション)」実現に向けた行政の動きが活発化しています。本記事では、八女市のDX戦略の概要から具体的な取り組みについて解説します。

八女市の概要

八女市は福岡県の南東に位置する市です。その歴史は古く、市内には多数の古墳や遺跡があります。また市名の「八女」は奈良時代に編纂された最古の歴史書『日本書記』(720年)に登場するこの地の女神「八女津媛」からきています。

お茶どころとして名高く、八女茶は日本有数の高品質茶として知られています。和紙をはじめとした伝統工芸品の里としても知られており、総生産額は九州でも最大規模となっています。

住所(市役所)〒834-8585 福岡県八女市本町647番地
面積482㎢
人口60,073人(2023年11月末時点)
市内のランドマーク 八女中央大茶園黒木の大藤

DXの重要性と八女市の取り組みの背景

地方自治体のDXの重要性

DXとは「デジタル・トランスフォーメーション(Digital Transformation)」の略で、デジタル技術を活用してビジネススタイルや生活、社会をよりよいものに変革していくことを指します。現代ではスマートフォンやインターネットの普及により、人々とデジタルは密接に関わり合うものになっています。デジタルの力でさらに快適な生活を送れるよう、DXの重要性が提唱されています。

政府は、目指すべきデジタル社会のビジョンとして 「デジタルの活用により、一人ひとりのニーズに合ったサービスを選ぶことができ、多様な幸せが実現できる社会~誰一人取り残さない、人に優しいデジタル化~」を提示しています。

それを受けて総務省は「このビジョンの実現のためには、住民に身近な行政を担う自治体、とりわけ市区町村の役割は極めて重要」と述べています。

参考:総務省「自治体DX推進計画概要」

地方自治体のDXは市民サービスの向上、業務効率化、市民参画の促進、地域の活性化、公共サービスの質の向上など、様々な面で重要な役割を果たしています。地方自治体が積極的にDXを推進することで、地域の発展と市民の生活の質の向上が実現されることが期待されています。

八女市のDX取り組みの背景

昨今、スマートフォンの普及やAIの台頭でデジタル技術が急速に発展しています。さらに新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、テレワークやキャッシュレス決済が広がるなど人々の行動様式は変化し、同時に行政のデジタル化の遅れも浮き彫りとなりました。

加えて、八女市の人口は減少傾向で少子高齢化が進行しています。国勢調査によれば、1985年(昭和60年)には8万4556人だった人口が、2020年(令和2年)には6万608人と、約76%にまで減少しています。

以下のグラフは2015年(平成27年)までのデータですが、ここからも八女市の人口構造が変化していることがよくわかります。

画像引用元: 八女市ホームページ「第5次八女市総合計画

画像引用元: 八女市ホームページ「第5次八女市総合計画

高齢者が増え少子化が進むということは、生産年齢人口が減っていくということです。労働人口が限られてしまうため、これまでは人が介在することで回っていた社会、サービスが成り立たなくなってしまう危険性をはらんでいます。

このように、生活や行動、社会が変化する中で、DXを推進し人々の生活をより良い方向に変化させていくことが八女市の重要な任務となっています。

八女市のDX施策の概要

市をあげたDX施策推進のため、八女市は「デジタルトランスフォーメーション 推進戦略」を策定しました。2021年(令和3年)度から2025年(令和7年)度までの5年間を計画期間としています。この戦略は、まちづくりや施策推進の方向性を示す市の最上位計画「第5次八女市総合計画」を、DXで補完するものとしてつくられました。

DX化を目的ではなく「手段」と位置づけており、デジタル技術を活用して「市民と行政がともに諸問題を解決するため、職員一人ひとりの主体的な取り組みと部門を超えた協調と市民の協働により、それぞれが理想とする社会を実現」することを方針としています。

取り組みについては、

  • 便利で充実した住民サービスを実現することを目的とした「住民サービスのDX」
  • 効果的で効率的な行政を目的とした「行政のDX」
  • 地域・産業の問題に取り組む「地域のDX」

の3点を基軸に進めています。

八女市のDX施策の具体的な取り組み

八女市のDX施策について具体的な取り組みを紹介します。

八女市で使えるデジタル地域通貨を導入

八女市は地域コミュニティの形成や活性化を狙い、2020年10月より、デジタル地域通貨の運用を開始しています。人口減少が進み空き店舗が増えている状況で、市内に人を呼び込むために企画されました。

利用方法としてはスマートフォン、タブレット向け端末アプリ「まちのコイン」をダウンロードし、バスや飲食店で提示すると、八女市の地域通貨「ロマン」をためることができます。貯めたロマンは八女茶の試飲や天文台での天体望遠鏡の操作など、八女市ならではの体験サービスを利用することに使えます。

2020年10月の導入後から2023年4月にかけて5200人以上が使用し、4割は市外者の利用でした。当初のねらいを達成し、地域のDXを実現する取り組みだったといえるでしょう。

参考: コミュニティ通貨「まちのコイン」事業について|八女市ホームページ

福岡・八女のデジタル地域通貨で急須の掃除…導入自治体増、ユニークな体験も:地域ニュース : 読売新聞

マイナンバーカードのオンライン窓口を設置

八女市は2023年2月21日より期間限定でマイナンバーカードのオンライン相談窓口を設置しました。

使用目的は高齢者施設、福祉施設の入居者に向けたマイナンバーカードのリモート申請サポートです。マイナンバーカードの普及を推進するのはもちろん、申請したくても外出できず、窓口に来られない市民の相談にのるためという狙いから導入されました。

民間企業が開発したシステムを通じて利用者と八女市の職員が電話や映像で利用者とコミュニケーションをとり、マイナンバーカードの申請手続きを実施しています。スマホや電話などの身近な機器で、対面に近い状態で市役所の職員からサポートを受けられることが利用者にとってのメリットになっています。

利用率などのデータはありませんが、マイナンバーカード交付の先進的な取り組み事例として総務省から紹介されています。少子高齢化が進む八女市ですが、外出が困難な住民を取り残さないという、まさに住民サービスのDXを推進する施策の一例といえるでしょう。

参考: マイナンバーカードのリモート申請サポート専用の窓口を新設 (八女市公式ホームページ)

AIツール導入で業務時間削減

八女市役所の総務部 DX推進室 DX推進係は外部ツールを活用し、職員の業務時間の削減に成功しています。

同係はデジタル化を進めるため、業務の困りごとについて他職員に調査を行っており、その中で「会議後、録音した音声データから議事録を作成することが負担」という声が多く寄せられたそうです。そこで、業務時間の削減を図り、音声データを文字起こしできるAIツールを導入しました。国がDX推進のためにAIやRPAの導入を推奨していることも後押しとなったようです。

結果、議事録作成の時間が大幅に短縮され、業務時間の5割が削減されるなど大きな効果を得ることができました。ツールを使うことでルーチン作業に使っていた時間をなくし、その分ほかの行政の仕事に時間を割けるようになります。行政のDXを実現する取り組みだったといえるでしょう。

他にも、八女市はAIチャットボットの実証実験を行うなど、新しい仕組みを取り入れることに積極的です。業務効率化、住民サービス向上に努めることで今後もますます行政のDXが進むと考えられます。

参考: 議事録作成の時間を大幅削減し、小さなDXの推進を実現する。 | ジチタイワークス

スマートシティにより近づく、予約管理システム「RESERVA」

ICT技術を活用したDX化を実現するためには、地域住民のITリテラシーやデジタル活用の意識を高めることも重要です。企業や店舗、行政機関などは、利用者と接点を持つ際にデジタルツールの利用機会を増やし、デジタル活用を浸透させることが大切です。

デジタルツールの普及に向けて役立つのがSaaS型サービスです。SaaS型は高機能でありながら、リーズナブルに利用できることが特徴です。例えば、オンライン予約システム「RESERVA(レゼルバ)」は、あらゆる業界・業種でも導入されているSaaS型サービスです。

RESERVAを導入することで、集客・予約・決済・来店といった一連のビジネスフローを自動化し、従来の予約管理方法から脱却するなど、ビジネス全体のDXを実現します。

近年では、自治体や官公庁、大学などの導入実績も増えており、官民連携を果たした実例も多いのが特徴です。導入実績の詳細は、予約システムRESERVA(レゼルバ)ホームページをご覧ください。

まとめ

今回は、福岡県八女市で実施されている「八女市デジタルフォーメーション推進戦略」を解説しました。

人口減少や高齢化が進んでいる中、地域通貨を導入してまちの活性化に取り組む、オンライン窓口やAIツールなど新しいシステムを積極的に活用するなど、八女市はDXによる一定の成果を出しています。

戦略に掲げた行政、住民サービス、地域すべてに対してDXの施策を推進する八女市は、今後もさらに成果を出していくでしょう。

人口減少や社会の変革に伴う課題は、多くの自治体が直面するものです。同様にDX戦略を進めようとしているものの、何をしたらいいのか迷っている場合もあるかと思います。そうしたときに、八女市の取り組みは参考になるのではないでしょうか。

今後も、予約DX研究所では地方自治体のDXに関する国内事例を取り上げていきます。他の地方自治体のレポートについては、こちらよりご覧ください。

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