【2024年版】独自調査から見えた大学DXの最前線|大学DX調査総括レポート

【2024年版】独自調査から見えた大学DXの最前線|大学DX調査総括レポート

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2020年から世界的に拡大した新型コロナウイルスの影響で、ここ数年で急速にその知名度を上げたのがデジタル・トランスフォーメーション(以下、DX)です。新型コロナウイルスの感染拡大対策として、テレワークや非接触の技術に注目が集まったことをきっかけに、官公庁や企業、大学などでDXの推進に向けた取り組みが活発化しました。

大学では、講義やオープンキャンパス、証明書申請など各種手続きのオンライン化、学習管理システム(以下、LMS)の活用などがコロナ対策として推進されました。大学DXとしてはコロナ対策だけでなく、「学修のDX化」に注目が集まっているほか、大学事務の業務効率化、学び直しを含めたDX人材育成など、幅広い観点から大学DXに関する理解を進めていく必要があります。

大学DX調査について

RESERVA Digitalでは大学のDXにおける取り組みに関して、独自に調査を進めてきました。2022年3月現在までに調査した大学は約20校で、独自に作成した評価項目で優れていた大学について、調査レポートとしてまとめています。

今回の総括レポートの執筆時点の調査対象としては、有名私大や旧帝国大学など学生や企業からの注目度が高い大学や、先進的な取り組みが知られている大学が中心です。これらの大学の特徴として、多くが私立・国立によらずさまざまな専攻を持つ総合大学で、生徒数も比較的多い大学でした。

今後は公立大学、専門性が高い大学、規模が小さい大学なども対象として調査し、より精度を高めて大学DXに関する事例の整理と考察を進めていきます。

大学DXの現在

大学DXといっても、その取り組みは多岐にわたります。各大学ごとに多様な取り組みが確認されますが、その目的は大きく分けて4つに分類できます。

  1. 高等教育に関するDX
  2. DXに関する産学官連携やDX人材育成
  3. 学生生活の支援・利便化に関するDX
  4. 大学業務に関するDX

この中でも特に注目されるのは高等教育に関するDXです。大学は教育以外にも研究活動や運営など様々な側面を持つ機関ですが、中でも教育にまつわる取り組みは学修の質の向上の実現に向けて、重要視されています。

実際に文部科学省の「デジタルを活用した大学・高専教育高度化プラン」(以下、Plus-DX)では、

大学・高等専門学校においてデジタル技術を積極的に取り入れ、「学修者本位の教育の実現」、「学びの質の向上」に資するための取組における環境を整備し、ポストコロナ時代の高等教育における教育手法の具体化を図り、その成果の普及を図ることを目的としています。

とあります。

ポイントとなるのがこの取り組みは「ポストコロナの教育はデジタルによって変化する」という前提に立っていることです。DXが一般に広まりを見せたことで教育システムを抜本的に改革するいい機会と捉えていることも要因の1つになっています。

残りの点についても、研究機関として企業や自治体と連携して大学の研究成果を社会で活用する、学生生活について利便性を向上することで間接的に学修をサポートする、業務効率化によって人的資源を確保して学生向けのサービスの拡充に取り組む、というように大学DXを考える上では必要な項目となっています。

これら4点のポイントについて、実際に調査で確認された事例も踏まえて、大学DXの現在を整理していきます。

1.高等教育に関するDX

高等教育におけるDXについては大きく分けて「学びの自由化」と「学びの質の向上」という2つの観点があります。また、将来的には2つの観点に共通して「学修結果のデジタル化」につながっていくと考えられます。

学びの自由化

学びの自由化にはより多くの人が学びやすい仕組みが必要で、代表的なオンライン授業の普及によって期待されていることの1つです。大学の講義の受講スタイルが多様化することはもちろん、Massive Open Online Course(以下、MOOC)のような開かれた学びの機会も増え、より自由に学修を続けることができるようになります。

日本では社会人の学び直しはあまり一般的ではありませんが、働き方やキャリアの考え方なども変革期に入ったことで、MOOCやリカレント教育などに注目が集まり、社会人も働きながら学び続けることができる時代が来るかもしれません。

MOOCとは

MOOCはオンラインで行われるオープンな大学の講義のことです。代表的なプラットフォームとしては「Coursera(コーセラ)」や「edX(エデックス)」があり、日本にも「JMOOC」というプラットフォームがあります。

MOOCでは様々な分野の講義が無料または少額で受講できます。「Coursera」や「edX」では修了証の取得時に支払いが生じる場合がありますが、JMOOCでは無料で修了証の取得が可能です。修了証は専門性の証明としても活用でき、学びの新しい形として世界的に注目されています。

学びの質の向上

大学では、教員が講義で対応する生徒数が多い傾向にあり、個人の理解度や進度に合わせた指導は難しいケースがほとんどでした。指導する内容の専門性も高く、生徒ごとの学修の進捗管理を把握するのは至難の業であるために、半ば諦められていた部分でもありました。

そこで、LMSを活用して、個人の学習記録を記録したり、理解度を図るテストを実施してデータを収集し、生徒それぞれの習熟度や進捗状況を管理し、さらに学習の傾向などをデータから分析する仕組みが考えられています。

これによって、個人に合わせた指導を実現し、1人ひとりの学びの質を高めることができるようになります。ラーニングアナリティクスやアダプティブラーニングと呼ばれ、EdTechの1つとして注目が集まっています。

学修結果のデジタル化

日本国内ではまだ実験段階ですが、データ分析やLMSの活用によって、より細かく学修結果を管理することで、個人の学修成果をデジタル証明書やデジタルバッジとして活用する動きがあります。

これが普及すれば、単に学位記を取得しただけではわからない個人の専門性やその理解度についても整理でき、就職活動などを含めて幅広い活用が期待できます。

2.DXに関する産学官連携やDX人材育成

多くの大学は研究の強みなどを活かして、DXに関連する産学官連携に参加しています。地域のDX推進に向けて産学で連携して自治体に還元していたり、産官連携に専門性を活かしてアドバイザーのように参加するなど、形式は様々です。

教育機関としてDXに関する学部や専攻などを設置し、高い専門性を有してDXによって社会に貢献する人材の育成に取り組む大学も多数あります。DXに関する教育については在籍する学生以外にも、リカレント教育として社会人の学び直し講座を開催する大学もあります。

3.学生生活の支援・利便化に関するDX

学生生活の支援や利便化については、さまざまな取り組みがなされており、代表的なものとしては証明書のオンライン申請や、学生生活に必要な申請や管理、お知らせを統括するポータルやアプリの提供などが挙げられます。その他、大学のホームページやLINEの大学公式アカウントにチャットボットを実装したり、変わったものでは広大なキャンパス内の移動にスマートモビリティを活用する事例もあります。

留学生の獲得に向けても、さまざまな言語でサイトや資料を閲覧できたり、オンラインでの説明会を開催している大学もあります。少子化が進む日本においては、留学生の獲得は重要な観点となっています。

・証明書のオンライン申請
早稲田大学|各種証明書のオンライン申請
・公式アプリの提供
立教大学|情報提供アプリ「SPIRIT Mobile」
青山学院大学」|大学公式アプリ「らいふいんあおやま」
・チャットボットの導入
明治大学|各学部ごとにチャットボットを導入
立命館アジア太平洋大学|留学生向けAIチャットボット
・オンラインオープンキャンパス
東北大学|VR体験ができるオンラインオープンキャンパス
・キャンパス内スマートモビリティ
九州大学|スマートモビリティ「aimo」
・留学生募集・出願システム
立命館アジア太平洋大学|学生募集・出願システム「Slate」の導入

4.大学業務に関するDX

大学業務では、企業や自治体でも見られるRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)の導入や、クラウドサービスの活用などがあります。ペーパーレス化も取り組みが見られますが、大抵は企業や自治体以上ほど進んでいないのが現状です。

大学ならではの業務としては、教員の研究成果や研究資金や予算の管理などが挙げられます。研究予算や資金の獲得状況、特許の状況などが教員の管理になっていると、大学側が把握できずに問題が生じたり、外部との連携に進めない事例もあるため、重要な業務と言えます。

・RPAの導入
早稲田大学|運営業務へのRPA導入
・ペーパーレス化の取り組み
近畿大学|学費納付書ペーパーレス化ソリューション
・クラウドサービスの活用
慶應義塾大学|SAP Concur 導入による業務軽減
・教員(学内研究者)向けポータルサイト
東京理科大学|Virtual Research Environment(VRE)
・オンライン事務化宣言
東北大学|オンライン事務化宣言の発出

大学DXのポイントと考察

大学DXを考える上で重要になるのはDXと教育の関係性です。DXによって教育が変化することと、教育によってDXに携わる人材が育つことは相互に影響しています。大学DXでは教育のDX化に重点が置かれていますが、DX人材は常に不足しているため大学でも人材の育成にも取り組んでいます。

今後の大学DXはDX化による学びの質向上と、それによって優秀なDX人材を輩出すること、この2点を中心に進んでいくと予想されます。加えて、DX化によって学び直しがしやすい環境になれば、一度社会に出た人が再度学修をしてDXに限らず知識や技術を社会に還元できるようになります。

したがって、この取り組みが上手く軌道に乗れば、DX関連だけでなく、他の分野や社会全体についてもDX化やイノベーションが進み、日本のデジタル化、発展を支える大きな取り組みになります。

一方で、教育DXの目的とDX人材育成の目的が同一ではないことには注意が必要です。それぞれの目標達成を進めながら、大学のDX化と社会全体のDX化、そして発展が推進されることが期待されます。

文部科学省の取り組み

文部科学省は2020年(令和2年)12月に「文部科学省におけるデジタル化推進プラン」を取りまとめました。その中の「大学におけるデジタル活用の推進」の取り組みとして始まったのが「Plus-DX」です。

この中で、「ソフト・ハードの両⾯から⽂部科学省の強みを最⼤限に活かし、各分野におけるデジタル化に向けた取組を相乗的に加速させるとともに中⻑期的視野から競争⼒の源泉となる新たな成⻑基盤の構築を推進」というビジョンを掲げ、教育全体や文化・芸術・スポーツなどに幅広く具体的な事項と取り組みをまとめています。

その他、2021年3月で終了した「成長分野を支える情報技術人材の育成拠点の形成」(以下、enPiT)などで、高度IT人材の育成を目指し、大学・企業界の協力体制のもとで推進されるリアリティの高い講義や演習など、特色あるプログラムを実施してきました。

まとめ

大学DXは高等教育機関としての教育の質を高めることやDX人材の育成、研究機関として産学官連携での社会貢献、学生生活の利便性向上や教職員の業務効率化などが主な目的として確認されました。

DX化によって教育の質を高めると同時に、学び直しがしやすい環境を構築することで、DX人材に限らずあらゆる分野で高い専門性を持ち、社会に貢献できる人材の輩出が可能になります。また、DXに関連する分野での研究成果と社会への還元にも期待がかかります。

教育機関であり、研究機関でもある大学だからこそできるDXへの貢献が数多くあります。本記事でまとめた先進事例を参考にして、大学の強みを生かしたDXに取り組んで行きましょう。

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