自治体DX推進手順書とは?全体手順書、参考事例集を含めて解説!

自治体DX推進手順書とは?全体手順書、参考事例集を含めて解説!

更新

近年、自治体ではデジタルトランスフォーメーション(以下、DX)の活用が重要視されています。新型コロナウイルスの感染拡大に伴いテレワーク環境の整備や、ワーケーションという新しい働き方の推進などに取り組み首都圏からの移住者増加に尽力している自治体に加え、デジタル技術やデータを活用して住民の利便性向上に取り組んでいる自治体も増えています。

しかし、各自治体の中でDX化の進捗度合いはさまざまで、まだDX化への取り組みが進んでいない自治体も多くあります。そのため、政府が掲げる自治体情報システムの標準化・共通化や行政手続きのオンライン化を進めるためには、全国で足並みを揃えてDX化に取り組んでいく必要があります。

そこで、この状況の打開策として政府が公表したのが「自治体DX推進手順書」です。本記事では、そんな自治体DX推進手順書について、参考事例と共に解説します。

自治体DX推進手順書とは

「自治体DX推進手順書」は、令和3年7月に総務省によって作成された自治体がDXを進めるための一連の手順を示したものです。「全体手順書」「自治体情報システムの標準化・共通化に係る手順書」「自治体の行政手続のオンライン化に係る手順書」「参考事例集」からなります。

本記事では、特に重要とされる「全体手順書」と「参考事例集」をもとに自治体がDXを推進する方法を紹介します。

全体手順書では、自治体がDXを進めるために必要なステップを4つに分類しています。各ステップごとに先行的な事例などが紹介されており、自治体ごとのDX化進捗度合いに合わせて参考にすることが可能です。

DX推進手順
ステップ0:DXの認識共有・機運醸成
ステップ1:全体方針の決定
ステップ2:推進体制の整備
ステップ3:取り組み実行

ステップ0:DXの認識共有・機運醸成

DX化では、単に新しい技術を導入するのではなく、デジタル技術やデータを利用して住民の利便性向上や業務の効率化・改善等に繋げることが重要です。また、令和3年に設立した「デジタル社会形成基本法」の基本理念では以下のように述べられています。

自治体は、基本理念にのっとり、国との適切な役割分担を踏まえて、その自治体の区域の特性を生かした自主的な施策を策定し実施する責務を有することとされた。

以上の理念を踏まえて国との役割分担や自主的な施策を実施するためには、首長や幹部職員のリーダーシップや強いコミットメントが重要です。また、首長や幹部に加え、組織としてDX化を進めるにあたって、一般職員もDXについて理解する必要があります。

他にも、DX化には「サービスデザイン思考」の共有が求められます。国では、プロジェクトを進めるために重要なノウハウを「サービス設計12箇条」にまとめられています。利用者視点で考えることが重要となるDX化において必要不可欠な考え方と言えます。

<サービス設計12箇条>
第1条     利用者のニーズから出発する
第2条     事実を詳細に把握する
第3条     エンドツーエンドで考える
第4条     全ての関係者に気を配る
第5条     サービスはシンプルにする
第6条     デジタル技術を活用し、サービスの価値を高める
第7条     利用者の日常体験に溶け込む
第8条     自分で作りすぎない
第9条     オープンにサービスを作る
第10条   何度も繰り返す
第11条   一遍にやらず、一貫してやる
第12条   情報システムではなくサービスを作る

参考:サービス設計12箇条

取り組み事例

大阪府豊中市|「とよなかデジタル・ガバメント宣言」

新型コロナウイルスの感染拡大を契機に市長が自ら「とよなかデジタル・ガバメント宣言」を発出しました。デジタル技術の活用により、「暮らし・サービス」「学び・教育」「仕事・働き方」の3つを大きく変革することが目標です。デジタル・ガバメント宣言に基づき、今後3カ年の具体的な取り組みを示す「デジタル・ガバメント戦略」も発出しています。

デジタル・ガバメント戦略では、オンラインサービスの拡充や電子決済の推進、市民の情報リテラシー向上、デジタル学習環境の整備、システムのクラウド移行等の実施に向けた施策が公表されています。

参照:とよなかデジタル・ガバメント宣言・戦略
   とよなかデジタル・ガバメント戦略

山形県舟形町|「DX計画を若手職員が中心となり策定」

舟形町では、DXの推進するため、情報化推進委員会を設置しました。委員長として副町長、副委員長としてデジタルファースト推進室長が任命されています。他のメンバーには、各課から若手職員を選出し形成されています。委員会では、各課の担当職員や係長、課長へとデジタル技術の活用に関するヒアリングを実施し、DXの認識共有を図りました。その後、各課が抱える課題の解決に必要な施策を検討し、DX計画を選定しています。

参照:舟形町デジタル化推進計画

ステップ1:全体方針の決定

ステップ0でDXに関する知識を深めた後には、ステップ1の全体方針を決定し、広く共有する必要があります。DX化を進める上で、組織全体として協力して取り組んでいくことが重要です。全体方針を作成する際には、自治体DX推進の意義を参考にしつつ、地域の実情や自治体のデジタル化進捗状況も踏まえて、DX推進ビジョンを描きます。まずは、自治体のDX化への取り組み内容や取り組み順序を検討して、大まかに工程表を作成しましょう。

また、DX推進の工程表を作成する際には、BPRの取り組みを徹底することが重要です。BPRとは、現在の業務プロセスを詳細に調査・分解し、国民サービスの質の向上や人的リソースの活用等の面から問題点を徹底的に分析して、業務プロセスそのものの再構築を図ることです。たとえば、既存の行政手続きをすべてオンライン化するのではなく、「申請自体を不要とすることはできないのか」など利用者目線に立って考えることが大切です。

取り組み事例

愛媛県|「愛媛県・市町DX協働宣言」

愛媛県と20市町は協働してDXを推進することを宣言しています。主な取り組み内容は、デジタルリテラシーの向上と高度デジタル人材のシェアリング、システムの標準化・共同化・クラウド化の推進、県・市町一体となったデータ利活用などが挙げられます。

参照:愛媛県・市町DX稼働宣言について

宮城県仙台市|「デジタル化ファストチャレンジへの取り組み」

仙台市では以前より、デジタル技術の利活用の推進に取り組んできましたが、さらにデジタル化への動きを加速するため「デジタル化ファストチャレンジ」に取り組みます。デジタル化ファストチャレンジでは、できることはすぐに実行するという考えのもとで住民の安全安心、利便性の向上などの観点から「窓口手続きのデジタル化」「デジタルでつながる市役所」「デジタル化で市役所業務の改善」の3つの内容に取り組んでいます。

参照:仙台市|デジタル化ファストチャレンジに取り組みます

ステップ2:推進体制の整備

DX化に関する全体方針が決定された自治体の次のステップは、DX推進体制の整備です。DX化推進には、全庁的・横断的な体制を構築することが重要となります。具体的には、まずDX推進を担当する部門を設置し、その後、DX担当部門を軸に各部門と緊密に連携する体制を構築します。

ここで抑えておくべきポイントは、単にDX担当部門と各部門が緊密に連携しただけではDX化は進まないということです。各部門ごとに役割に見合ったデジタル人材を配置する必要があります。長期的な観点で見ると、一般職員も含めて所属や職位に応じてデジタルスキルを身につけることが望ましいです。

取り組み事例

高知県高知市|「DX推進本部を設置」

高知市は、DXを全庁で戦略的に推進するため、「高知市DX推進本部」を設置しました。それに伴い、ITに関する最高決定機関を従来の「高知市IT推進部」から、「高知市DX推進部」へと転換しました。横断的な取り組みを実施するため、必要に応じて担当部署などの職員招集しDXに関する具体的な企画・立案を検討するプロジェクトチームを結成します。

また、分野ごとの取り組みについて、情報政策課および行政改革推進課が助言や支援を行ない後押しします。

参照:自治体DX推進手順書参考事例集【第1.0版】

兵庫県神戸市|「DX推進に向けた人事戦略」

神戸市では、DX推進に向けて高度な専門人材の確保・育成から庁内のICTリテラシー向上まで多面的な人事戦略を行なっています。

高度な専門人材の確保・育成では、外部からのデジタル人材の確保に加え、庁内公募制度によってDX人材育成コースを新設しています。庁内のICTリテラシー向上への取り組みとしては、基礎的なICTスキルを学習するために必要な研修動画をまとめたポータルサイトの作成、民間企業への1週間程度の派遣などを行なっています。

参照:自治体DX推進手順書参考事例集【第1.0版】

ステップ3:取り組みの実行

ステップ0からステップ2の取り組みを行なうと、自治体DX推進計画ですでに制定されているガイドライン(※)などを踏まえて、個別のDXを計画的に実行します。ここで重要なポイントは、PDCAサイクルによる進捗管理を行なうことです。DXの効果を最大限に発揮するためには、継続的にDX化の効果を確かめ、改良していくことが重要です。また、DXの推進によって柔軟でスピーディーな意思決定が求められる場合は「OODA(ウーダ)ループ」(※)を活用することが有効とされています。

前述のとおり、DX化への取り組みは1度だけでは終わりません。PDCAやOODAループに共通する考え方である、継続的に効果を確かめながら進めていくことがDX化推進には重要です。

※自治体DX推進計画のガイドライン
・システムの標準化等
・マイナンバーカードの普及促進
・オンライン化
・自治体の AI・RPA の利用推進
・テレワークの推進
・セキュリティ対策の徹底 など

※OODA(ウーダ)ループ
「Observe(観察、情報収集)」、「Orient(状況、方向性判断)」、「Decide(意思決定)」、「Act(行動、実行)」
の頭文字をつないだ言葉で、意思決定プロセスを理論化したものです。PDCA と異なり、計画を立てるステップがないため、スピーディーな意思決定を行なうことを可能とします。

取り組み事例

愛知県瀬戸市|「電子決裁機能付き文書管理システム導入」

瀬戸市では、一部の部署で施行した電子決裁機能付き文書管理システムを全庁で本格的に運用して行政事務のペーパーレス化の推進を目指しています。

これまで簿冊で管理されていた行政文書をファイリングシステムで管理することによって、文書の検索時間などの短縮、情報の一元管理による組織対応力の向上、期限満了文書廃棄の円滑化などのメリットがあります。今後は、行政文書にとどまらず、すべての書類の電子管理化を目指します。

参照:電子決裁機能付き文書管理システムの導入 【愛知県瀬戸市】

北海道北見市|「書かない窓口、ワンストップ窓口の実現」

北見市は、RPAを利用したバックヤードの自動化に加え、受付などのフロント部分のシステム化にも着手しています。書かない窓口、ワンストップ窓口が有名です。

書かない窓口では、来庁者は職員に本人確認書類の提示や届け出内容を伝えるだけで、システムにより申請書が作成されるため、来朝者は申請書に署名するだけで手続きが行なえます。ワンストップ窓口では、他課の手続きを住民異動窓口に集約することで、来庁者は課を回る必要がなくなります。

参照:北見市ワンストップサービス推進計画

まとめ

本記事では、地方自治体のDX推進を加速させるために政府によって作成された「自治体DX推進手順書」を紐解いて説明しました。DX化を進めることは、単にシステムを導入するだけでなく、DXに関する理解から人材育成など1つひとつ課題をクリアしていく必要があります。

ステップ0では、DX推進のキーパーソンとなる首長や幹部職員の存在や一般職員のDX化に対する理解などが重要です。また、利用者の利便性を向上させるという面でもサービスデザイン思考の考え方を参考にする必要があります。

ステップ1では、全体方針を決定します。全体方針作成時には、取り組み内容や順序を含めた工程表を作成し、組織全体に情報を共有することが重要です。また、単純にシステム化への工程を作成するのではなく、業務の必要性も加味して、プロセスの再構築をします。

ステップ2では、DX推進体制の整備を行ないます。DX推進を担当する部署の設置や各部門ごとにデジタル人材を配置します。長期的には、一般職員も含めて所属や職位に応じてデジタルスキルを身につけることが望ましいです。

ステップ3では、ステップ0からステップ2で準備したことや、自治体DX推進計画で制定されているガイドラインを踏まえて、DXを計画的に実行します。実行する際の重要な考え方は、継続的にDX化の効果を確かめ、改良していくことがDX化の結果につながるということです。1度の施策で終了することなく、長期的に変革していくことがDX化を成功させるカギとなります。

自治体の担当者には、現在のDX進捗状況を的確に把握して、上記で説明した段階順にDX化に向けた取り組みをすることが求められます。

予約システムで、ビジネスを効率化

RESERVA.lgは、自治体向けのクラウド予約システム。官公庁、自治体における導入実績は500以上。公共施設予約、自治体のイベント、窓口予約など様々なシーンで導入されています。