新型コロナウイルス感染症拡大の影響でビジネスのあり方は大きく変化しました。様々な業態転換が多業界で行われる中、広く普及したものの1つに、「予約システム」があります。コロナ禍以前から店舗、施設運営においては広く利用されていた「予約システム」ですが、「ワクチン接種事前予約」や「人数制限」などが一般化してきた社会において、「予約システム」は様々な業界、業態にアジャストする形で活用の幅を広げています。
コロナを踏まえたニューノーマルな生活の流れの中で「予約の概念」はどのように変化するのか、アフターコロナに向けて予約のありかたがどのように変わっていくのか、予約の未来予想を考えていきます。
過去:今までの予約
予約という概念が急速に広まったのはおそらく固定電話の普及が大きく寄与したのではないでしょうか。各店舗が1つの回線を持ったことに加え、経済の発展に伴って第三次産業が発展していったことがサービスとして予約を始めたきっかけと考えられます。
時代が進みインターネットの時代になると、電子メールによる予約や、予約をすべて自動で受けることができる予約システムが登場します。一方で、予約システムは大量の予約処理が必要なところに導入されるもので、しばらくは大企業や官公庁が主な利用者だったと思われます。
インターネットが社会インフラとして成立した現代になると、スマートフォンなど機器やシステムの高度化に伴って、様々なシステムが一般化しました。予約システムも例にもれず、現在では幅広い業種、分野で予約システムが活用されています。
現在:予約の今を整理
現在の予約システムは基本的に事業者側へ提供されるもので、予約を受け付ける側の効率化が目的です。予約システムの導入方法としては、企業が提供する既存の予約システムの活用やシステムの自社開発が主です。
上記に挙げた予約システムでは事業者側と予約者側の双方のニーズに応えたシステムの構築が求められています。例えば、予約時の自動応答メールやリマインドメールは事業者側の確認作業をすべて自動化でき省人化になりますし、LINEを利用した予約は利用者が多いアプリケーションを活用した予約者側から見て利便性が高いサービスになります。
様々な予約システムが一般的に広まってきたことで、サービスとしての予約システムは「導入の有無」から「システムの質の高さ」へと評価点が変化し、サービスとして一段上の領域に到達したと言えます。一方で、電話での受付と台帳への記帳といったアナログな予約もまだまだ利用されています。
業態によってシステム導入の進み方にバラつきはあるものの、新型コロナウイルスの影響もあり、今までは予約を利用していなかった業種でも予約システムの導入が進むなど広く普及が見込まれています。
利用側の効率化
予約におけるプロセスを単純化すると「予約時の手続き」「予約の受付」「予約当日の手続き」の3つの手順になります。
事業者側は「予約の受付」が主なプロセスで、既存の予約システムの導入により効率化が可能です。「予約当日の手続き」にも関わっていますが、効率化の余地がある部分と考えられます。
予約者は「予約時の手続き」と「当日の手続き」に関係しています。「予約の手続き」では人数や日程、予約者の情報を事業者側に提供し、「当日の手続き」では入店・入場に必要な確認を行います。いずれのプロセスも十分に効率化しているとは言えないのが現状です。
つまり、これから効率化される予約のプロセスとは「予約時の手続き」と「予約当日の手続き」と考えられます。この2点について事例を交えて考察します。
予約時の手続きの効率化
予約する際の手続きのメインは、予約に必要な情報を伝えることです。業態によって必要な項目は様々ですが、利用時間、人数、代表者名などを伝えることで予約として確定させます。予約フォームの改善やLINEの利用などは予約システムを運用する側、事業者側の取り組みですが、あくまでも予約システムに付随するもので大きな変化ではありません。
したがって、事業者側の対応が必要になる可能性はありますが、それ以上に利用者側の予約手続き自動化が重要な意味を持ちます。利用者が予約をする時の情報を伝える作業の自動化が予約プロセスにおいて効率化の大きなカギを握ると考えられます。
事例①Google Duplex(グーグル・デュプレックス)
2018年に発表された「Google Duplex」は、「Google アシスタント」がユーザーの代わりに自動で店舗に電話をかけて予約を取り、結果を報告してくれるというサービスです。ユーザーは店舗を選び、予約する時間や訪問人数などの情報を入力するのみで、後は「Google アシスタント」が自動ですべて済ませてくれます。
現時点(2021年12月現在)ではアメリカを中心に8カ国の一部地域で利用可能ですが、日本ではサービスが始まっていません。利用者、事業者ともに無料で利用でき、事業者は「Google マイビジネス」のアカウントを作り、設定するだけで「Google Duplex」からの予約を受け付けることができます。
「Google Duplex」のより詳しい解説記事はこちら
事例② JTB × Amazon Alexa(アマゾン アレクサ)
AlexaはAmazonが開発したバーチャルアシスタントAI技術で、「スキル」と呼ばれるサードパーティ製のアプリケーションをインストールすることで様々な作業を音声認識で行うことができます。旅行会社のJTBはAlexa向けのスキルとして、「JTBホテルスキル」や「JTBおでかけチケットスキル」を提供しています。
予約の自動化という観点では、「JTBホテルスキル」で行先や日程、人数を伝えることでおすすめのホテルやプランが提示され、音声のみで予約が完結します。音声認識AIでの予約の自動化はフォーム入力が難しい人も利用でき、画面を見る必要もないため予約を取る際の新しい方法になっていくと考えられます。
音声認識AI「Viv(ヴィヴ)」
「Viv」は、次世代の音声認識AIとして2016年5月に発表され、複雑な問い合わせやあいまいな指示にも対応可能、という特徴を持っています。また、アプリとの連携をすることでアプリを使った作業の実行も可能です。
例えば、「Aさんに花を送りたい」という指示に対して、「Viv」が自動で花屋のアプリから花を購入しAさんにギフトとして送る、という作業を行ってくれます。複雑な作業である予約の自動化にも一役買ってくれることでしょう。
「Viv」はApple製OSに搭載されている音声アシスタント「Siri」の開発チームが開発に携わっており、次の変革をもたらす技術として大きな期待がかかりますが、2016年の発表以来、開発の続報は今のところありません。
参考:音声認識&『実行』できるAI “Viv” がついにデモ公開!Siri開発者が放つ本気のAI秘書
より詳しい解説記事はこちら
予約手続きの効率化・自動化については、AIによる音声認識を中心に取り組みは進んでいますが、まだまだ広く普及するには時間がかかりそうです。予約には自発的なアクションが必要で、主体があくまでも予約者であるために事業者側にできることが限られている点が要因の1つであると考えられます。
ただ、今回の事例からもわかる通り「Viv」のように柔軟な対応ができるAIは予約の自動化において大きな意味を持っています。開発が進んでAIが自動でユーザーの行動を学習、予測して様々な予約を提案し、自動で手続きをしてくれるというSF小説のような未来もあるかもしれません。
予約当日の受付の効率化
受付については、個人認証の方法を工夫することで効率化が可能なため、手続きの効率化と比較して事業者が取り組みやすい部分であると言えます。受付の効率化は、事業者だけでなく顧客にもメリットがあり、サービス提供における付加価値として考えることができます。
一方で、受付を効率化したことで個人情報の扱いなどセキュリティの観点から問題が生じるリスクもあり、顧客のユーザビリティとうまく折衷して効率化に取り組む必要があります。
事例①QRコード認証
QRコードによる受付は主にイベントの入場時などで広く使われるようになっています。事業者側はコードスキャナーを設置しておけば扱うことができ、利用者もスマートフォンで受付の処理ができるため、少ない人数で効率的に入場時の処理を行えます。
QRコードは画像データのため、受け渡しが容易であるという特徴があります。利便性は高いですが、その分セキュリティの観点から複製や転売などのリスクがあります。そのため、イベントによってはチケットはQRコードで発布し、入場時に別途本人確認を実施することがよくあります。
事例②顔認証
顔認証は、Appleの「Face ID」やWindowsの「Windows Hello」など個人デバイスに普及している認証方法で、予約における受付にも活用されています。あらかじめ顔の情報を登録しておく必要はありますが、受付時は文字通り顔パスで入店・入場が可能です。
技術の進歩により認証の精度が向上し、非接触での個人認証としては準備するものが少ないため、利便性に優れた認証の方法として広まってきました。QRコードと異なり、利用者はカメラの正面に立つだけでよいので、スマートフォンの操作に明るくない人でも使いやすいというメリットもあります。
既に利用されているケースでは、施設利用時の手続きに顔認証のシステムを実装しています。たとえば、会員制のジムで24時間いつでも利用ができるように顔認証システムを設置し利便性の向上を図る、最先端技術を取り入れたホテルでルームキーの代わりに顔認証を利用して付加価値を生み出すなど、様々な試みがなされています。
音声認識や顔認証からわかる通り、AIの進歩は作業の自動化を大きく進めます。予約についても例外ではなく、予約受付に関する効率化が進んだ場合、ほとんどはAIが関係しているとみて間違いないでしょう。
予約当日の受付についてはすでに効率化や省人化が進められており、業種によっては入店・入場から退店・退場まで人を介することなくサービスの提供が可能です。将来的にはQRコード認証や顔認証以外にも様々な認証技術が受付の際に利用される可能性があり、受付の利便性はサービスの価値につながるため、今後も様々な発展が予想されます。
未来:予約の多様化
予約システムの普及やAIの進歩による効率化によって、予約はより多様化していくことと予想されます。予約が多様化することで、事業者は提供するサービスや営業スタイルに合わせた予約の使い方ができているかが重要になります。顧客のニーズに応えながら、業務の効率化を進める上で最も良い予約の方法が取れるように、考えていく必要があるでしょう。
①人間同士での予約(電話、直接予約など)
直接やり取りを行う電話や対面での予約の持つメリットはやりとりの柔軟性です。特に事前準備の必要なオーダーがある時、細かい確認をするのにメールでは効率が悪い場合もあります。営業時間内のみ、とすることで希少性を打ち出すこともできます。一方で、予約の受付に人を利用するため、他の業務に影響するという点は従来通りと考えられます。
人の介在が必須で人がサービスを行う事業で、ブランディングなどを踏まえてホスピタリティを重要視する場合は、この予約の形が最も合っていると考えられます。例えば、飲食店や旅館・ホテルなどで複雑な聞き取りを実施する場合には、この予約方法を使う主な事業者になると予想されます。
②人間と機械を介した予約(メール、予約システム、AIによる電話など)
24時間対応可能で、たいていの場合はメールなどを利用してタイムラグこそあるものの、相互のやりとりが可能です。効率化の部分と、人が関与する部分のいいとこどり、と言った印象で、今後最も多くの業態で活用されていくことが予想されます。利便性を上げて、より多くの顧客を獲得したい場合に有用な使い方です。
このタイプの予約方法を使う業種は多岐にわたり、概ねサービスの主体が人かどうかによらず活用できます。差別化のポイントとなるのは予約システムやメールフォームなどの利便性で、最も活用されるということは、差別化が難しいということでもあります。
③ 機械同士での予約(予約から受付まで一切人の手を介さない場合)
まだ現時点では普及していない形の予約ですが、今後のAI技術の発展と、アフターコロナの情勢を鑑みて、特に施設利用などで利用される形と予想できます。先に述べたAIによる予約手続きと、入店・入場処理が自動化できると、一切人の手を介さずにサービスを受けることが可能です。
例として、ジムやレンタカー、シェアオフィスなど、モノや施設に対する予約については利便性や、省人化の観点から業態のスタンダードを変えられるポテンシャルを持っています。一方で人の手が入らないために現場での柔軟な対応というものはほとんど不可能で、あらかじめシステムに組み込んでおく必要があります。
ここで分類したものは概要であるため、実際に運用される形としてはさらに多様になっていることが予想されます。例えば、通常は予約システムを利用しつつ、要望があった顧客に対してのみアポを取って電話対応を行うなど、サービスの質的向上の一貫として取り組むことができます。
また、予約の間口を広めないことを付加価値としている事業者では、今後も予約作業をアナログで行うことをブランディングとして活用できます。AIが発展し普及しても、電話予約は今後も一定数運用され続けると考えられます。今現在、人間同士だからこそ可能なコミュニケーションが将来的にAIでも可能になったとき、初めてサービスとしての創造性を試されるでしょう。
まとめ
今回は予約の未来予想図として「予約プロセスの効率化」と「予約の多様化」について考察してきました。
「予約プロセスの効率化」は今後も進行していくことが予想されます。コロナによって加速した予約システムの活用や、非接触の技術、AIの利用を利用したニューノーマルな予約の形として技術を取り入れて、アフターコロナでも発展を継続していくでしょう。
「予約の多様化」では、効率化に伴ってプロセスが多様化するなど、予約そのものがバリエーションを持つことを説明しました。予約がスタンダードになり、予約の方法を比較することが容易になったことで、予約の質が問われる時代になっていくことが予想されます。
事業者の立場では、事業で提供するサービスについて、ターゲット層や事業方針に合わせて最も価値を生み出せる予約を考えていく必要があります。顧客としてもサービスを選択する際に好ましい、使いやすいと感じる予約方法を使っているかどうかが選ぶポイントの1つになってくると考えられます。
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