近年、インターネット技術や交通手段の発達により進む「グローバル化」は、医療業界にも進展しています。新型コロナウイルスのワクチン早期確保に成功した国や地域では、「ワクチンツアー」という接種目的の観光ツアーも開催されています。このような医療を目的とした外国人に対するインバウンド事業は、「医療ツーリズム」と呼ばれ、世界各国で経済活性化につながる政策として、注目されています。
日本は医療先進国として、国内に高い医療サービスを提供していますが、アジアを中心とする国や地域と比べて、まだ医療ツーリズムを支える体制は途上段階にあります。今回は、医療ツーリズムの効果と「医療機関認証制度」について、さらには世界と比較した日本の今後の課題について解説します。
世界で広がる医療ツーリズムとは
医療ツーリズムとは、「自分の国では受けられないサービスや高度な医療技術を求めて、他国へ渡航すること」です。医療ツーリズムの目的は大きく3つに分類されます。
【医療ツーリズムの目的】
①「治療」:がん治療や心臓病治療、臓器移植など
②「健診」:人間ドックやPET検診など
③「美容・健康増進」:美容整形やエステ、スパなど
医療ツーリズムは、「医療観光」、「メディカルツーリズム」とも呼ばれています。自国にはない最先端の医療技術を受けられること、医療を受けるまでの待機時間が短いことなど患者にとってメリットの大きい医療ツーリズムですが、受入れ国の経済発展にも大きな影響を及ぼします。
医療ツーリズムのメリット・デメリットとは
【メリット①】観光業の促進
医療サービスを受ける目的で渡航しているため、長期滞在の可能性が高く、患者の多くは富裕層であると予想されます。そのため、滞在にともなう消費額も高額になり、観光の際にも、単価が高くなる可能性もあります。海外の富裕層が、長く日本に滞在することで、周辺地域のインバウンド事業や消費額が拡大し、日本経済の活性化につながります。
【メリット②】医療環境の改善
医療ツーリズムで訪れる患者は、世界各国の医療サービスを比較し、医療機関を選定しています。そのため、受入れ国として求められる医療の質は海外と競争を強いられることとなり、新しい医療機器の導入や治療法の開発などが積極的に行われることが予想されます。また患者は、健康保険を利用せず、自費で治療を受ける場合が多いため、病院へ医療費として支払われる金額も高くなり、安定した医療機関経営にもつながります。
【デメリット】国内居住者の優先順位が低下
海外から訪れる患者は、高度な医療サービスを求めてきており、高額な医療費を支払うことになります。そのため、病院側がより多くの利益を得るために、医療ツーリズムの患者を優先し、国内居住者の診察が後回しになってしまう可能性があります。
国際水準を保つ医療機関認証制度
JCI(Joint Commission International)の認証
JCIは1994年に設立され、第三者の視点から医療施設を評価する国際非営利団体です。アメリカ国内の病院に対する審査を行う機関として始まり、現在はそのノウハウを活用して、全世界の医療サービスの質や安全性などを評価し認証しています。医療ツーリズムを利用する患者が医療機関を選ぶ中で、高度な医療技術や安全性を重視するため、JCIが認証している施設であることが世界から注目されるポイントとなります。2021年7月27日現在、日本国内でJCIの認証を受けている医療機関は31施設となっています。
JMIP(外国人患者受入れ医療機関認証制度)
JMIPは、多様な文化・宗教に配慮した対応や多言語による案内など、訪日外国人が安心・安全に日本の医療サービスを受けられる体制を整備している医療機関を認証する制度です。一般財団法人日本医療教育財団が認証制度を運用しており、医療機関の外国人患者受入れに対する体制を、中立で公平な立場で評価しています。日本医療教育財団のホームページによると、認証医療機関は76施設となっています。(2021年7月27日閲覧)
アジアにおける医療ツーリズム
タイ
タイでは、2002年に政府観光庁による「医療ハブ構想」が行われ、豊富な観光資源と安価な医療費を活かして、積極的に医療ツーリズムを推進してきました。長期滞在ビザの発給、特定地域における外国人の医療分野への投資許可などの政策が行われ、2013年10月に日本貿易振興機構が公表した資料によると、タイの医療ツーリストの受入れ人数は、2001年の55万人から、2012年には253万人に達しました。タイでは、スパやマッサージといった健康増進や美容整形などを目的に訪れる外国人が多いことが特徴です。
シンガポール
シンガポール政府は2003年から、医療目的で同国を訪れる外国人を積極的に誘致しています。タイやマレーシアなど近隣諸国との差別化を図るため、シンガポールでは、特に富裕層をターゲットとした高度な治療や環境整備に力を入れています。国内にあるマウント・エリザベス・ノビナ病院は、高級ホテルのスイートルームを連想させる内装となっており、海外の富裕層向けの専門施設となっています。シンガポール観光庁によると、医療ツーリストの受入れ人数は2002年の約21万人から2008年には64万6000人に増えました。
マレーシア
マレーシアは、タイ、シンガポールに後れを取りながらも、同じイスラム圏の中東諸国やインドネシアからの医療ツーリストを中心に、独自の政策で積極的な誘致を行っています。マレーシアの医療ツーリズムの特徴は、イスラム教徒の生活習慣に対応した医療環境が整っていること、物価が安く滞在費が抑えられることなどが挙げられます。主な治療分野は、心臓病やがん、体外受精などであり、2013年10月に日本貿易振興機構が公表した資料によると、受入れ人数は2009年を除いて年々増加し、2012年には67万1727人に達しました。
韓国
韓国の医療ツーリズムは2009年に政府が17の新成長エンジンの1つとして「グローバルヘルスケア」を選定したことで本格化しました。医療目的とした外国人と同伴者に限定したビザの発給を開始し、5か国語で24時間対応のメディカルコールセンターを設立するなど様々な政策を行い、2013年10月に日本貿易振興機構が公表した資料によると、2009年には6万201人だった受入れ人数が、2012年には15万5672人を達成しました。
国内の医療ツーリズムへの取り組み
医療滞在ビザの発給
日本では、2011年1月より「医療滞在ビザ」の発給が開始されました。医療滞在ビザとは、治療を受けることを目的として日本を訪れる外国人患者と同伴者に対し発給されるものです。医療機関における治療行為だけでなく、人間ドックや健康診断などの幅広い分野が受入れ対象となっています。滞在期間は、90日以内、6カ月または1年となっていますが、患者の健康状態を踏まえて決定されます。
2011年に医療滞在ビザ始まって以来、発給数は年々増えています。2016年の医療滞在ビザ発給数は1307件で、2012年の188件と比べると62%も増加しています。
「JMHC(ジャパン・メディカル&ヘルスツーリズムセンター)」の設立
JMHC(ジャパン・メディカル&ヘルスツーリズムセンター)は、株式会社ジェーティービーが設立した、外国人患者を受け入れる日本の医療機関をサポートする医療コーディネート部門です。主な活動は、多言語医療翻訳、宿泊の手配、医療滞在ビザの身元保証業務、プロモーション活動などです。これらの業務を行うためには、日本の法律上複数のライセンスを保持することが必要で、その中で特に重要なライセンスである「認証医療渡航支援企業(AMTAC)」と「医療滞在ビザの身元保証機関」です。JMHCは、両方のライセンスも保有しており、積極的な事業活動を行っています。
日本の医療ツーリズムが抱える3つの課題
今後はさらなるグローバル化やDX化(デジタル・トランスフォーメーション)の進展にともなって、医療ツーリズムを受け入れる国内の医療機関が増えていくことが予想されます。しかし、日本において海外の患者を受け入れる体制は完全には整っておらず、課題は多く残されています。2017年10月30日に経済産業省が発表した資料によると、人手不足や外国語対応を課題に挙げる医療機関が多いことがわかります。
【日本の医療ツーリズムにおける3つの課題】
①国内の患者対応により人材不足
②院内表示や食事などの多言語・異文化への対応
③外国語を話す医師、看護師が不足
多言語や異文化に対応する体制を整える壁は高く、外国人とトラブルが起きた際や細かい手続きを行う際でのコミュニケーションに難色を示す医療従事者は多くいます。今後、医療現場ではグローバル人材の補充やAIによる翻訳や業務効率化を図るシステムの導入などが必要不可欠になってきます。
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まとめ
今回は、医療ツーリズムは経済にどのような効果をもたらすのか、医療機関認証制度とはなにか、そして海外の取り組みと比較した日本の課題について解説しました。医療ツーリズムは、世界中でグローバル化の進展にともなう成長分野として注目されていますが、外国語を話せる人材を含め深刻化する医師不足や院内表示の整備など、国内の医療機関における課題は多くあります。今後は、医療機関の経営を見直す機会に、高度で安心な医療サービスの提供を維持しながら、「グローバル化」に対応した新たな取り組みを検討してみてはいかがでしょうか。